きょうのコラム『時鐘』

2017/03/23 01:26

 ミステリー作家(さっか)・内田康夫(うちだやすお)さん(82)の休筆(きゅうひつ)宣言(せんげん)が話題(わだい)になっている。新聞小説(しんぶんしょうせつ)を連載中(れんさいちゅう)に脳梗塞(のうこうそく)で倒(たお)れた。中断(ちゅうだん)したが未完(みかん)のまま出版(しゅっぱん)、完結編(かんけつへん)を公募(こうぼ)するというのである

世(よ)に出(で)られずにいる若(わか)き才能(さいのう)に期待(きたい)してのことだという。内田さんといえば20年前(ねんまえ)の本紙(ほんし)連載(れんさい)「はちまん」を思(おも)いだす。新聞小説は「パズルを組(く)み立(た)てて全体像(ぜんたいぞう)を完成(かんせい)させるもの。整合性(せいごうせい)が問(と)われる」と連載前(まえ)に話(はな)していた。その大事(だいじ)な結末(けつまつ)を見知(みし)らぬ若手(わかて)にゆだねるのである

幕末(ばくまつ)・長州(ちょうしゅう)の革命児(かくめいじ)・高杉晋作(たかすぎしんさく)が闘病中(とうびょうちゅう)に上(かみ)の句(く)だけの歌(うた)を詠(よ)んだ。「面白(おもしろ)き事(こと)もなき世(よ)をおもしろく」。それに下(しも)の句を付(つ)けて完成させた人(ひと)がいた。「住(す)みなすものは心(こころ)なりけり」と。面白い世にするもしないも「心の持(も)ちかた次第(しだい)」と解釈(かいしゃく)されている

面白い文学(ぶんがく)。面白い革命(かくめい)。二(ふた)つは似(に)ている。自分(じぶん)一人で完成できなくても、志(こころざし)が高(たか)くあれば必(かなら)ず受(う)け継(つ)ぐ者(もの)は現(あらわ)れる。面白くて住みよい社会(しゃかい)は未来(みらい)を信(しん)じてまかせよう。だが、それができる人とできない人がいる。政界(せいかい)にも文学界(ぶんがくかい)にも

年(とし)をとって病(やまい)に倒(たお)れても、次代(じだい)に夢(ゆめ)を託(たく)せる人こそ幸(しあわ)せである。