きょうのコラム『時鐘』

2017/10/19 01:07

 山(やま)に雪(ゆき)が来(き)た。立(たて)山(やま)で平年(へいねん)より9日遅(おそ)い初(はつ)冠雪(かんせつ)、と記事(きじ)にあった。昨年(さくねん)より16日早(はや)い、ともある。冬(ふゆ)に向(む)かう歩(あゆ)みが速(はや)いのか逆(ぎゃく)なのか、近(ちか)ごろはさっぱり分(わ)からぬ

早晩(そうばん)、白山(はくさん)も富士山(ふじさん)も雪化(ゆきげ)粧(しょう)する。冬の装(よそお)いが似(に)合(あ)うのは、ふるさとの霊(れい)峰(ほう)だけではない。白(しろ)く輝(かがや)く頂(いただ)きを仰(あお)ぎ見(み)るすがすがしさは格別(かくべつ)。そんな季節(きせつ)がくる

変(か)わった名山(めいざん)の観賞法(かんしょうほう)を、箱根近(はこねちか)くに住(す)む画家(がか)から教(おそ)わった。富士はめったに描(えが)かない。「あれは姿(すがた)が整(ととの)い過(す)ぎている」。描くのは、山(やま)の半(なか)ばを厚(あつ)い雲(くも)が覆(おお)った時(とき)。美(うつく)しい山容(さんよう)が隠(かく)れると、余情(よじょう)が生(う)まれるといい、長(なが)く伸(の)びる裾(すそ)野(の)と雲とを描く。これ見(み)よがしの露(あら)わな姿でなく、雲に隠れた山の風情(ふぜい)を好(この)んだ

山に雪が来ても、気(き)まぐれな秋(あき)の空(そら)は、往々(おうおう)にして頂きを隠す。雲が無(ぶ)粋(すい)に見(み)え、腹立(はらだ)たしくもなる。が、ものは考(かんが)えよう。厚い雲に隔(へだ)てられていても、美しい霊峰の姿を、土地(とち)に暮(く)らす者(もの)なら難(なん)なく思(おも)い描くことができる。雲に隠れた山の姿を悔(くや)しがるのは、行(ゆ)きずりの旅(たび)の人(ひと)である

雲があってもなくてもいい。頂きが白く輝くと、霊峰の恵(めぐ)みは、より深(ふか)まるように思えてくる。