富山市街地のいたち川べりを歩いていると、ペットボトルやポリタンクを両手に抱えた
人の集まる井戸があった。三月とはいえ、まだ冷たい水をくみ取り、中には隣のお地蔵さ
んに熱心に手を合わせていく人もいる。「いったい何の御利益があるのだろうか」と気に
なって声をかけると、返ってくる答えはさまざま。いわく、「目の病気が治る」「子宝に
恵まれる」「学業に御利益が」。話を聞くうち、その噂(うわさ)の秘密を確かめたくな
った。
石倉町の延命地蔵尊横でわく水は富山名水百選にも指定され、万病に効く「延命水」と
して知られている。立山山麓(ろく)の雪解け水が約二十年かけて下り、地下約四十メー
トルからわき出す。水をくむ人の中には、飲料水だけでなく、料理や風呂に使う愛好者も
いるという。「この水でなければ」と訪れる酒蔵や菓子店主もいる。地蔵は約百五十年前
に川底から現れ、悪疫(あくえき)を治めたと語り伝えられている。奉賛会が毎日、花を
供え、周辺を掃き清めるなど信仰を集める。
街づくり機関「まちづくりとやま」副社長の松井幹夫さんによると、地蔵尊の水は「頭
の良くなる水」として評判らしい。石倉町周辺には東大合格者が多いという。子供のころ
から井戸の水を飲み続けた御利益があったのか。富山育英予備校でも、三年前から大みそ
かに、合格祈願に訪れている。ノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんの生家も近いとあ
り、松井さんは「田中さんもこの水を飲んでいたかも」と話す。
地蔵尊の水を心のよりどころにして生きている人も多い。富山市笹津(旧大沢野)の水
口ミズイさん(73)もその一人だ。約五十年間にわたり、十五キロ離れた自宅からほぼ
毎日地蔵尊を訪れ、さい銭を欠かさない。子宝に恵まれない娘のため、祈願を続け、その
かいあってか授かった孫の勝博さんは、今、東大に通い勉学に励んでいる。三歳のころか
ら高校まで、ミズイさんに連れられ、地蔵尊に通い続けたという。
ミズイさんは「お地蔵さんに授かり、育て、見守られた子だと思う。命の続く限り、感
謝したい」と話す。一心に祈る水口さんと肩を並べ、お地蔵さんの柔和な顔を見ているう
ち、多くの御利益がささやかれる水の魅力が分かった気がした。
(岡部道典)