今日の社説

2016/06/29 00:57

天然記念物の損傷 「違法行為」の注意喚起を

 文化庁が全国の自治体を通じて、国の名勝や天然記念物の保存、管理状態の緊急調査を始めた。自然公園法に基づく特別保護地区、文化財保護法の指定地域にある岩場や岩石などにくさび(ハーケン)を打ち、傷つける事例が全国で相次いでおり、文化財保護法や自然公園法違反の疑いがある。

 ロッククライマーのモラルの問題とはいえ、自然公園法や文化財保護法の指定地域という認識がなく、くさびを打ち込む行為を違法と思っていないケースも多いのではないか。被害の全国調査は、ロッククライマーへの注意喚起の好機である。地域でも監視の目を強め、文化財や自然環境を守りたい。

 岐阜県御嵩町にある国の天然記念物「鬼岩」に、ロッククライミング用のくさび2本が打ち込まれているのが判明して以降、長野県飯田市にある国の名勝「天竜峡」の岩場でも打ち込まれたくさびが63本見つかった。富山、石川など4県にまたがる白山国立公園では、石川県の天然記念物「白峰百万貫の岩」が少なくとも6カ所、くさびで傷つけられているのが確認されている。

 国の天然記念物の「地質・鉱物」は全国に約240、名勝の庭園や岩石は250以上ある。このうち福井県の東尋坊は、国の天然記念物でありながら、戦前からロッククライミングの練習場として知られ、事実上、黙認状態の時期もあった。現在は地元の三国町教委が、岩肌を傷つける行為の自粛を呼び掛けており、腐食したくさびやボルトなどの撤去作業も進められている。

 富山県では称名滝、山崎圏谷(けんこく)(いずれも立山町)など、石川県では、曽々木海岸(輪島市)、山科の大桑層化石産地と甌穴(おうけつ)(金沢市)、手取川流域の珪化木(けいかぼく)産地(白山市)が国の天然記念物の指定を受けている。

 石川県教委は今月中にも地質学の専門家とともに「白峰百万貫の岩」の損傷状況を調査する方針である。全国で現地調査を行えば、文化財被害がさらに見つかるのは確実だろう。国はもとより、自治体指定のものを含めて、地域の協力を得て実態を明らかにし、被害の拡大を防ぎたい。

大震法見直し 予知の前提にとらわれず

 東海地震に備える大規模地震対策特別措置法(大震法)が、抜本的に見直されることになった。東海地震対策の大前提である「直前予知」は困難とされる上、東海地震単独ではなく、東南海、南海を合わせた三つの地震が連動して起きるとの見方が強まっているからである。地震の予知が可能という仮説に基づく大震法の対策が、実際には機能しない可能性が大きい以上、抜本的な見直しは当然であろう。

 1978年制定の大震法では、気象庁の予知情報に基づいて首相が「警戒宣言」を出し、これを受けて国、自治体、民間事業者などが鉄道の運行停止や道路の通行制限など、事前に定めた応急対策を講じる仕組みになっている。

 巨大地震の原因とされるプレート(岩板)の跳ね上がりの直前に生じる前兆現象を捉えれば地震予知が可能との学説に基づき、気象庁は静岡県を中心に27カ所の地下に、岩盤の伸縮を観測できる高感度の「ひずみ計」を設置して観測を続けている。こうした観測体制の強化で東海地震だけ予知が可能とされてきたが、中央防災会議は2013年に前兆現象を捉えるのは困難との見解を示した。

 東海地震説は1976年に提唱された。1940年代の東南海、南海地震の「割れ残り」が大地震を起こすとみられ、明日起きても不思議ではないと言われ続けながら、最近は三つの地震が連動する南海トラフ巨大地震発生の可能性の大きさが指摘されている。

 大震法とは別に東南海、南海地震に備える「南海トラフ地震特措法」も制定されている。しかし、同特措法は事前予知を前提としていない。三つ連動の巨大地震が懸念されながら、仕組みの異なる二つの対策法が併存する状況を放置しておくことはできない。各法を統合した新法を設けて、対策を強化するのが望ましいだろう。

 内閣府の有識者会議で地震予知の可能性をあらためて議論し、注意喚起といった方法が可能かどうかも検討するという。地震予知に関する仮説にとらわれ過ぎて、大震法全体の見直しが遅れることがないよう求めておきたい。