今日の社説

2017/04/30 01:42

日本遺産に「北前船」 一段と進めたい寄港地連携

 加賀市など全国11市町が申請していた「北前船寄港地・船主集落」が日本遺産に認定された。日本遺産では前例のない7道県にわたる広域エリアで構成されており、藩政期の「海の新幹線」とも称される北前船が、交易ネットワークの構築や文化の伝播に与えた影響の大きさを物語る。北陸のゆかりの地も加わって、日本海側の寄港地連携を一段と進め、スケールの大きい交流のストーリーを描くことで、地域に活力を注入したい。

 認定自治体に名を連ねている加賀市には、重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)に選定された「加賀橋立」があり、伝統的な街並みを生かすまちづくりが行われている。これまで寄港地フォーラムの開催をはじめ、ゆかりの地の図書館同士でPR展示を実施するなど、多様な分野での地域間交流にも積極的に取り組んできた。

 今回「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間」として認定対象になった地域は、大通りに面した豪壮な屋敷や、港につながる小路が組み合わさって特徴的な街並みを形成する船主集落に焦点を絞り込んでいる。しかし、対象地域に限らず、かつて北前船の寄港地だったところは、全国で100カ所以上に及び、北前船に関連する特色ある観光名所も数多い。

 北陸の海岸線をたどれば、富山では重要文化財の廻船(かいせん)問屋「森家」など往時のにぎわいを伝える富山市岩瀬や高岡市伏木、石川でも加賀市橋立のほか、豪商銭屋五兵衛が活躍した金沢市の金石・大野や、重伝建の輪島市門前町黒島など、北前船で栄えた港町が各地にある。

 認定対象の自治体以外でも、地元と北前船との関わりを掘り起こし、地域の歴史と先人の進取の気性にあらためて光を当ててアピールする好機であろう。次年度以降に追加認定をめざして連携することも視野に入れたい。

 伏木富山港や金沢港など日本海側の拠点港では、現代の北前船とも言える大型クルーズ船の誘致にしのぎを削っているが、日本遺産認定を機に、協力して北前船をキーワードにしたクルーズ船の旅を企画すれば、さらなる誘致の追い風になるのではないか。

抗がん剤の指針 終末医療も併せ考えねば

 厚生労働省が、高齢のがん患者に対する抗がん剤治療の指針づくりに乗り出す。がんが進行した高齢患者は、抗がん剤の延命効果に疑問符が付けられており、適正な治療指針によって不要な投薬を減らすことができれば、副作用に苦しめられる患者にとっても、医療保険財政にとっても望ましいであろう。

 厚労省は、患者によっては抗がん剤投与に代わる治療を施し、生活の質を高めることも提案する考えという。高齢がん患者に対する抗がん剤投与の指針づくりを契機に、それと不可分の緩和医療や終末期医療の在り方に関する議論を深めることも重要である。

 日本医師会は生命倫理に関する有識者懇談会を設置し、「尊厳ある終末期医療」に関する報告書を今秋にもまとめ、政府に提言する予定である。尊厳死の法制化をめざす超党派の国会議員連盟は2012年に法案をまとめている。人の生死の在り方を法律で規定することには反対意見も根強く、法案は宙に浮いたままであるが、超高齢社会を迎え、回復の見込みのない患者への過度な延命治療の是非などに関する議論を進めることも国会の責務であろう。

 厚労省が高齢がん患者に対する抗がん剤治療の指針策定に動いた一つのきっかけは、国立がん研究センターの調査結果である。進行の肺がん患者のうち75歳未満の患者は、抗がん剤の延命効果が明らかに見られたが、75歳以上は抗がん剤治療を受けた患者と、受けていない患者の生存期間に大差はないという結果が出された。

 高齢がん患者は、副作用による体力の低下や、他の病気の併発が多いことから、抗がん剤の効果は限られるとの指摘もある。国立がん研究センターの調査は対象者が極めて少ないため、75歳以上の高齢患者に抗がん剤は効かないとは言い切れず、同センターも指摘する通り、もっと大規模な調査が必要である。抗がん剤の延命効果は患者それぞれによって異なり、本人や家族の意思も尊重しなければならない。年齢で一律に区分けするような治療指針では、患者らの理解を得られないだろう。